ツクチェピーク峰登頂報告

10月4日午前3時30分、腕時計のアラームが鳴る。「時間だよ」とみんなに声を掛ける。多少、頭が重い気がする。

ランタンをつけて食事の準備を始めると、いつの間にか気にならなくなっていた。C1に入ってからは僕が食当になっている。

昨日の出前一丁が好評であった。今朝はマウンテンハウスのフリーズドライ、スクランブルエッグとチキンラーメンである。小野さんは食欲がなさそうである。私と橋本さんは割り当て分を詰め込む。

カロパニからライススープしか口に入らない私がC1に入ってから食欲旺盛となる。気合で食欲も増したかな?と思いながら出発の準備にかかる。

午前6時10分、2人は既に出発していた。C1の上が急登であったため、なかなか追いつかない。それに、今朝は相当冷え込んだようだ。手足の先が痛い。意識して指を動かし、ゆっくり歩くことにする。日の出が待ち遠しかった。フランス隊のC1跡地(6100m)で2人は待っていた。

そこから私がトップをとる。すぐ急斜面となる。100mほど登ると傾斜が緩む。そしてまた急登となる。そんな繰り返しが何度か続く。

一ヶ所、残地フィックスがあった。傾斜もきつく60°以上はあった。次にヒドンクレバス帯が出てくる。最初のうちはシュカブラに沿って歩いていたが、大きなクレバスにさえぎられる。直径4〜5mほどのクレバスが前と左右に立ちはだかる。

クレバスとクレバスの間がブリッチ上になり上部につながっているように見える。幅1mほど、なぞるように回り込む。しかし、ブリッチは途中で切れてしまった。高さ1m、階段状になっていた。すぐにザイルを出し小野さんに確保してもらう。

「他に道はない、前に行くしかない」そう思いながら僅かにつながっている場所を選び足場を固め静かに越える。越えながら足元を見る。ジョーズの口を思い出す・・・。

クレバスを越えた所で一息つく。時計は10時を回っていた。日がだいぶ高くなっていたことに気がつく。上部への道を探る。左に行こうか、まっすぐジャンクションピーク(J・P)に行くか協議する。協議の結果、J・Pに行くことにする。

上部の傾斜は70°近い状態であった。J・Pから50mほどの残地フィクスが下がっていた。帰りに懸垂用として利用できそうなので末端と中間をスノーバーで固定する。

稜線への抜け口はハングしていたが何とか越える。J・Pに10時50分着。BCと交信し今後の行動を協議する。

隊長よりJ・Pに午後5時に戻れる範囲で了解してもらう。上部への行動時間は午後3時を目処とする。

最低鞍部(6320m)に午前11時30分着。橋本さんは体調が思わしくないので、ここに残ると言う。私は、無線機・カメラ・旗・ピッケルを持ち頂上に向かう。

午前11時40分、出発。小野さんは既に出発し、50m先にいる。10分ほどで小野さんに追いつく。

天気がとてもいい。風もなくなり最高のコンデションとなる。1時間ほど歩き、見上げると頂上らしきものが見える。BCと交信する。

しかし、おかしいと思った。高度差600mもあるのだから、最低鞍部から1時間で頂上に着くはずがない。案の定にせピークであった。頂上へは、まだ200m以上ある。斜面も急となり70°を越えていると思われる。

急斜面となり、すぐクレバスが出てくる。真ん中がブリッチ状になっていたので、そこを登る。

頂上まで後30分と思われたが、20cmほどのラッセルで1時間以上かかる。

「登頂、午後2時14分」

最低鞍部から高度差600mを2時間半で登る。登頂の記念写真を亡き友人の写真と共に撮り、帰路につく。

1時間ほどで橋本さんと合流する。J・Pに午後4時45分着。予定通りであった。J・Pからは残地フィックスを使い懸垂下降。

ジョーズの口は、手前にスノーバーを打ち込みロープで懸垂下降する。後は急斜面を黙々と下降した。

フランス隊のC1上部にキッンボーイのマンバトルが迎えに来ていた。マンバトルが持ってきたスープをごちそうになる。「ありがとう、マンちゃん」と何度も声が出た。

フランス隊のC1を過ぎた所からヘッドランプを出す。C1へ下降中、BCから明かりが見える。

C1に午後6時30分着。

行動時間12時間20分。急に疲れが出てきた。テントに入りBCと交信したあと、私と小野さんはゼリー少しとお茶のみでシュラフにもぐる。

「熊さん登ったよ」ひとり言を言い、登頂できたことに、ようやく思いがつのる・・・。10月5日、BCへ降りながらダウラギリ1峰のことが頭に浮かぶ。

「よし、次は8000mだ!」

BCでは、みんなが待っていた。近くに来ると、妙に恥ずかしくなる。自分の思いを殺し、握手をする。登頂できて良かった。そう思えた一瞬であった。

「ありがとう、ありがとう」何度も心の中で叫んでいた。


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